横丁文化が根付く、青森県八戸市。日が暮れると、路地に赤ちょうちんや看板のネオンがともりはじめ、横丁が輪郭を現します。カウンターを囲んでお酒や料理を楽しんでいるうちに、常連客も一見さんもいつの間にか仲良くなっているから不思議。この記事では、そんな八戸の横丁文化を初めて訪れる人にもわかりやすく、横丁の歩き方や、地元ライターの視点で観光客におすすめできる店舗をガイドします。
八戸の8つの横丁とは?
古くから漁港・商業の街として栄えた八戸では、漁から戻った漁師たちをもてなす食と酒の場が発展してきました。戦後、戦地引揚者のための市場を開き、歓楽街として整備されるようになり、横丁文化が形成されていきました。8つの横丁が張り巡らされ、それぞれに特徴があります。
● みろく横丁
正式名称は「八戸屋台村 みろく横丁」。三日町と六日町をつなぐような立地のため、「みろく」と名付けられたそう。東北新幹線の八戸の開業の際に生まれた、8つのなかではもっとも若い横丁です。3年ごとに店の入れ替えがあることからも、若くて元気な印象です。
● 花小路
みろく横丁のちょうど真ん中を割るようにして、横に走る「花小路」。昭和40年代、三日町と六日町の中間に設けられた防災上の空閑地としての役目があったため、ビルとビルの間に形成された横丁です。昭和62(1987)年、「花の咲き誇る小路であるように」との願いを込めて「花小路」と名付けられたそうです。
● ロー丁れんさ街
みろく横丁の六日町側から、ゆりの木通り方面に抜ける鷹匠小路は、藩政時代に牢屋があったことから、「ロー丁(ろーちょう)」とも呼ばれています。そのロー丁と長横町れんさ街をつなぐような位置にあるため、「ロー丁れんさ街」と呼ばれるように。
飲食店の並ぶ対面は駐車場になっていて、2001年に閉館するまで、映画館〈テアトル八戸〉がありましたが、現在は〈タイムズテアトル駐車場〉としてその名が残っています。
● 長横町れんさ街
ロー丁れんさ街から長横町へと抜ける「長横町れんさ街」は、昭和20年代後半から続く飲食店街。鎖をつなぐようにして飲食店が並んだことから「長横町れんさ街」と呼ばれるように。二股に分かれたU字型になっていて、老舗バーからエスニックにカレー、ラーメン店などが立ち並びます。藩政時代には家老の屋敷があり、戦後は仕立屋なども集まる商店街だったそう。
● たぬき小路
札幌の狸小路のようなにぎわいを目指し、昭和20年代前半から「たぬき小路」と呼ばれるようになった飲食店街。吉永小百合さんが出演する『JR大人の休日倶楽部・八戸横丁篇』のロケ地にもなりました。
● ハーモニカ横町
もともとは「やきとり横丁」と呼ばれており、昭和45年頃に「楢館11番街」となりました。現在の「ハーモニカ横町」の名は、楽器のハーモニカの吹き口のように店舗が並んでいたことに由来しています。
● 五番街
八戸昭和通りから長横町に出て、ビルと駐車場の間にある抜け道を入ると、そこが五番街。アメリカ映画『五番街の出来事』に由来して名付けられた、昭和30年代後半から続く飲食店街です。奥へ進むにつれ、小さな建物がひしめいて、かろうじて人ひとり通れるくらいの細い道です。
● 八戸昭和通り
もともと愛称のなかった飲食店街ですが、平成14(2002)年の東北新幹線八戸開業にあたり、「昭和のぬくもりが感じられるように」との想いを込めて「八戸昭和通り」と名付けられました。
横丁への行き方
8つの横丁はすべて八戸市の中心街にあります。
新幹線の発着駅である「八戸駅」から、8つの横丁がある中心街へのアクセスは、以下のような方法があります。
・電車……JR八戸線「本八戸駅」まで約8分、徒歩12分
・バス……八戸市営バス、南部バスで「中心街方面」を経由するバスへ乗車、約25分。「十三日町」「三日町」「八日町」のいずれかで下車
・タクシー……約15分
最寄りの「本八戸駅」からは、以下のような移動手段があります。
・徒歩……徒歩12分
・バス……八戸市営バス、南部バスで「中心街方面」を経由するバスへ乗車、約7分。「中心街(中央通り)」「長横町」「中心街(八日町)」のいずれかで下車
※JR八戸線は2025年12月8日に発生した青森県東方沖を震源とする地震の影響により、12月30日まで八戸~鮫駅間はバスによる代行輸送を実施しています。詳細はこちらをご確認ください。
初心者向け、横丁の歩き方&マナー案内
迷い込んで飛び込んでみる
八戸市の中心街に張り巡らされた横丁は、「ここ通ってもいいの?」と思うような細い裏路地を通ることも。迷うことも横丁の醍醐味。気になるお店があったら飛び込んでみましょう。
お店によっては少人数がおすすめ
カウンター中心の店が多い横丁は、ひとり飲みでも気軽に受け入れてくれやすい一方で、大人数のグループは入店が難しい場合も。予約したり、お店の規模を事前にチェックしたりと、工夫してみて。
ぜひハシゴを!
八戸では1軒だけでなく、2軒、3軒とハシゴ酒するのが定番。数軒回ることで、ジャンルの異なる料理や雰囲気を楽しめます。
地元の人との交流を楽しむ
カウンター越しに店主と会話したり、他のお客さんと交流できたりするのは、横丁ならでは。地元の人の温かさに触れるチャンス。
お店の雰囲気を尊重
小さなお店は周りの人との距離が近いため、店や常連さんに配慮して。
八戸の横丁といえばここ。定番のお店
● 予約必須の人気居酒屋〈暖だん〉【たぬき小路】
八戸の人におすすめを聞くと、必ずといっていいほど名前が挙がる〈暖だん〉。赤ちょうちんが灯る「たぬき小路」のなかにある、2階建ての居酒屋さんです。
赤提灯の明かりが反射する店舗外観。
店主の竹内広貴さんは東京で腕を磨き、2015年に〈暖だん〉をオープン。妻のあゆ美さんは2021年に食堂〈ちある〉、2025年に昼は定食店・夜は居酒屋の〈TOSS〉を開店し、夫婦で3店舗を経営しています。
カウンターと小上がり席で合わせて20席強。
〈暖だん〉のメニューはちょっとしたおつまみから、刺身にお寿司、焼き魚、揚げ物、サラダ、肉まで種類豊富。お店へ伺った日は「本日のおすすめ」を含めると70以上のメニューがありました。厨房に立つのは竹内さんお一人のはずですが、超人ですか……? しかも、「ブルーチーズハムカツ」や「八戸産黒牛イチボ網焼き」「ニラだれ卵黄ご飯」「牛すじトマトカレー」「タコとアボカドのサラダ」など、字面からもシズル感のあるメニューが並びます(その日によりメニューは異なります)。
クリーミーな白レバーに、風味豊かな山椒とネギやミョウガがアクセントになった「白レバー山椒炒め」700円。
「アジフライ」1,300円。レアに揚げられたフライは、塩やレモン、大根おろし、タルタルから好きなものを添えて。骨もパリパリに揚げられ、骨せんべいのように食べられます。
旬の果実をサラダ仕立てにした「旬果サラダ」1,100円。この日は柿が使われていました。バルサミコ酢を使った甘酸っぱいソースに柿の甘み、削ったチーズの塩気がよく合います。
お酒も弘前発のクラフトビール醸造所〈Be Easy Brewing〉の「青森エール」に、山梨県北杜市の〈うちゅうブリューイング〉のクラフトビール、青森の地酒、全国の日本酒、ワインなどをラインナップ。
八戸の横丁はハシゴが基本ですが、ついつい長居してしまうお店です。
● 吉永小百合さんも訪れた〈山き〉【長横町れんさ街】
のれんや木製の看板が味わい深い。
「北の酒場」という言葉が似合う、旅情あふれる雰囲気を楽しめるのが、「長横町れんさ街」にある〈山き〉。昭和57(1982)年に寿司屋さんとして開業しましたが、大将が亡くなったことから、妻の山道圭子さんが2005年から今のスタイルで引き継いでいます。
一枚板のカウンターには、大皿に盛り付けられたおばんざいがずらりと並び、そこから食べたいものを注文することができます。
料理はだいたい500〜1000円台が中心。
実は〈山き〉は、2009年冬のJR東日本「大人の休日倶楽部」のCMロケ地にもなったお店。そのときに吉永小百合さんが座ったという席を教えてもらい、杯を傾けると、自分も銀幕スターのような気分に。
木目の美しいカウンターには日本酒が似合います。
小上がり席もあり、その壁には「大人の休日倶楽部」のポスターが。
厚揚げのしょうが煮やパイカ煮、カボチャの煮つけなど、お酒にも合う家庭料理たち。
また、おばんざいのほかに、「そばかっけ」「むぎかっけ」も食べられます。そば粉や小麦粉をこねて伸ばし、三角形に切ってだし汁で煮て、みそをつけて食べる郷土料理のこと。そば粉を使ったものが「そばかっけ」、小麦粉を使ったものを「むぎかっけ」と呼びます。みその種類は、にんにくみそやしょうがみそなど家庭によって異なりますが、〈山き〉ではねぎみそを提供。
白いのが「むぎかっけ」。
● サバのしゃぶしゃぶが自慢〈旨味処わらじ〉【花小路】
「花小路」に面したビルの2階にある〈旨味処わらじ〉は、みろく横丁出身のお店。2010年に開業し、2019年に現在の場所へ移転オープン。みろく横丁からもすぐそばの立地です。
花小路から伸びる階段を上がった先にお店があります。
料理人のニノ久保勝寿(にのくぼ かつとし)さんが腕をふるい、お寿司と居酒屋メニューで構成。春夏秋冬、そのときの旬のものを味わうことができます。
特に脂がのった八戸名物「銀さば」を使ってさまざまなメニューを展開しており、サバ目当てで訪れるお客さんも多いとか。
サバを握りや炙り、巻き寿司で楽しめる。1巻から頼めるのも嬉しい!
「サバ刺」850円。
「銀さばしゃぶしゃぶ」1,300円。
特に「銀さばしゃぶしゃぶ」は、多くの人が注文する名物メニュー。サバを出汁入りの鍋にさっと泳がせ、表面が白くなったら食べごろ。「しゃぶしゃぶしゃぶ」と一往復半くらいさせると、半生で一番おいしいと教えてもらいました。
新鮮な魚介や、毬姫牛ステーキといった地元産の食材に加え、「南部せんべいピザ」や「サバ出汁のせんべい汁」など、郷土菓子の南部せんべいを使ったメニューもあり、八戸の味覚を楽しむのにもってこいです。
一度は行ってみたい!ディープな老舗
● 〈洋酒喫茶 プリンス〉で、八戸を味わうカクテルを【長横町れんさ街】
一見入りにくそうなディープなお店でも、入ってみると温かみがあるのが八戸の横丁のよさ。その筆頭といえるのが、〈洋酒喫茶プリンス〉です。
昭和32(1957)年にオープンした同店は、長横町れんさ街のなかでも歴史の長い老舗バー。この外観から、最初は扉を開けるのに勇気がいりますが、ノーチャージでカクテル一杯500円と明朗会計の良店なのです。サクッと一杯から気軽に立ち寄れますよ。
店内に足を踏み入れると、オールバックに派手なシャツを着こなす、マスターの佐々木良蔵さんが優しく出迎えてくれます。
マスターの佐々木良蔵さん。基本的にママさんと息子さんを含む3人で営業。
天井いっぱいに名刺が貼られ、迫力のある店内。
こちらでは「蕪島」「白浜」「種差」などの八戸の名所、「えんぶり」「三社大祭」などのお祭りをイメージしたカクテルを提供しています。
日本酒とジン、グリーンティーリキュールで種差の天然芝を再現した「種差」。右にあるのはお通しとして提供されるスナック「こざかなくん」とチョコレート。
ジンベースに赤いグレナデンシロップで“日の出”、ブルーキュラソーで“海”を表したカクテル「みちのく潮風トレイル」。真ん中にある“太陽”は、生のうずらの卵。
ウミネコの繁殖地として知られる国の天然記念物「蕪島」のカクテル。ジンベースにブルーキュラソーで海を表現し、蕪島に咲く黄色い“カブの花”をカットレモンで、“鳥居”をチェリーで演出しています。
三社大祭をイメージした「神社エール」。左から、海を舞台とした「波山車」、大きな門や城を取り入れた「建物山車」、滝や松などが配された黒い岩山の「岩山車」、赤い欄干で四方を囲んだ「高欄山車」をイメージ。
三社大祭はおがみ神社、長者山新羅神社、神明宮の神社の合同のお祭りなので、神社を応援する意味も込めて「神社エール」と名付けられたそう。注文一杯につき100円を八戸三社大祭の山車振興会に寄付しています。
● おもてなし精神のすごい〈章〉で超満腹コースを【長横町れんさ街】
戦後まもなく、昭和23(1948)年にお茶漬けの専門店として開店した〈章〉。その後、定食屋を経て今のようなスタイルに。3代目の青山いく子さんは、名物女将として地元で愛される存在です。
〈章〉では予算を伝えるとおまかせでコース料理を出してくれます。1人前4000円からが目安なのですが、そのボリュームがすごいのです。
刺身の盛り合わせ。その日の仕入れ次第ですが、10種類以上が盛り合わせてあることもザラ。
山椒がきいたピリ辛の炒め物。
メインは五戸町のブランド黒毛和牛「倉石牛」がたっぷり入った「あきら風すき焼き」。
牛肉の下にはトマトと玉ねぎが敷かれ、ほのかな酸味があるので、脂身が重くない……! そして〆には野菜や肉の旨みを吸った割下を使って雑炊にしてくれます。
お腹いっぱいになるまで食べさせてくれるので、行くなら一軒目推奨、予約必須です。飲み物は持ち込み可なので、好きなお酒を買い込んで行きましょう。
話題のニューオープン
● 立ち飲みおでん〈あまちゃっこ〉【ハーモニカ横町】
昭和レトロな印象の外観。
ハーモニカ横町の岩泉町側の端に位置する〈あまちゃっこ〉は、2024年10月にオープンしたばかりの立ち飲み居酒屋。割烹着を着た女将さんが笑顔で迎えてくれます。
店名の「あまちゃっこ」は八戸の方言で、幼い子どもや未熟な人のことを指します。女将さんは飲食店経験があるわけじゃないので、「あまちゃっこだけどよろしくね」という意味を込めてつけたそう。
カウンターの上にお酒メニューの札が。壁や天井など、ほとんどDIYで作り上げたという店内にも注目を!
立ち飲みで5〜6人程度のこぢんまりとしたお店なので、席を譲り合いながら、ぎゅうぎゅうになって飲むのも横丁の醍醐味。
日本酒3種飲み比べがお得。
日本酒を求めて女将さん自ら酒蔵や酒屋さんへ出向くそうで、入手困難なお酒があることも。この日居合わせた常連さんが「さりげなくいいお酒を飲めるのが嬉しい」と話していました。
お通しはタラキク汁。八戸市民にとっては懐かしい味。
メニューはその日によって異なりますが、おつまみは300円台から用意しているので、気軽に一杯から楽しめます。
この日は「馬もつ煮」660円、せんべいのみみのバター炒め「みみバター」330円、「赤星」600円を注文。どれも手頃な価格。
みみバターは、外はサクッと、中はもちもち。つまんだ後なので、もうちょっと量がありました。
寒い時期に嬉しいおでんは一皿660円。大根やこんにゃく、ちくわなどの定番から、高野豆腐や車麩など、その日によって少しずつ構成が変わります。
八戸の家庭料理が味わえるほか、ほかほかのご飯も炊いていて、「ただいま」と“帰ってくる”常連さんも。ニューオープンながら懐かしさのあるお店です。
八戸の横丁文化を楽しもう
今回ご紹介したお店は、ほんの一部。自分で飛び込んでお気に入りの店を見つけるのも、横丁の醍醐味です。
八戸の横丁は、ただ“飲む・食べる”だけの場所ではありません。地元の歴史や、人々の暮らし、人情に触れられる“横丁文化”を、ぜひ体験してみてください!

1986年生まれ。青森県八戸市出身・在住(だけど実家は仙台に引っ越しました)。3人兄弟の真ん中、3人の男児の母。旅行会社、編集プロダクション、映像制作会社の営業事務を経て2011年に独立し、フリーライター/エディターに。2020年8月に地元・八戸へUターン。八戸中心商店街の情報発信サイト『はちまち』編集長に就任。主な執筆媒体は、講談社『FRaU』、マガジンハウス『BRUTUS』『Hanako』『コロカル』、Yahoo!『Yahoo! JAPAN SDGs』etc…
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